ストーリー
2019 年 6 月 10 日
言葉では足りないとき、先生たちはiPadで共通の言語を見つける
This feature is part of a series of stories spotlighting teachers and students using innovative technology in the classroom.
一人が「Sabah-ul-khair」と呼びかけると、待っていたかのように全員が元気に挨拶を返します。
ドイツ、デュッセルドルフのヴィルヘルム‧フェルディナンド‧シュスラー‧デイスクールの語学の授業では冒頭いつも、ニック‧キュリアキディス先生が毎回違う生徒に自分の母国語で「おはよう」と言ってもらいます。この日の朝、今ではほとんどそうですが、その言葉はアラビア語でした。
このクラスの多様性はドイツと欧州の変わりつつある様相を反映しています。過去5年の間に、この地域には第二次世界大戦後最大の移民と難民の流入がありました。多くは中東での暴力や戦争を逃れてやって来た人たちです。このことは教育者に他にはない挑戦となりました。様々な異なる言語だけでなく、全く異なる文字体系、さらには一度も教室というところに足を踏み入れたことのない生徒たちもいます。
キュリアキディス先生(47歳)と同僚のシナーン‧エル‧ハク‧ハディエリ先生(31歳)は、交互に別の日に授業を受け持っていますが、彼らにとって異なる言語の橋渡しをするための最もパワフルな道具がiPadです。
「子どもたちは間違った言い方をするのを恐れると引いてしまいます。この恐れを減らすと、子どもたちも安心して私達についてきてくれます。失うものがないですから」と、キュリアキディス先生は言います。
「iPadだと、例えば彼らが紙に何かを書いて、私が赤ペンを持って入ってきて『不正解』と言ったりするのとは全然違っていて、かれらはiPadで自主的に学んでくれます」と、ハディエリ先生は言います。
この学校には39カ国から来たおよそ325人の生徒たちがいますが、そのうち2割が“Deutsch als Zweitsprache” (DAZ)、すなわち「第二言語としてのドイツ語」を勉強しています。今日授業に来ている7人の生徒のうち、4人はシリア出身で、あとの3人はアフガニスタン、イラクそしてケニヤの出身です。
生徒一人に一台のiPadを用意する「1:1 iPadプログラム」をこの学校で導入して以来、100%の生徒が卒業しました。以前と比べて20%の増加です。そしてその変化が最も顕著なのがDAZの生徒たちです。
その中の二人がメディナ‧イブラヒム(13歳)と彼女の兄モハメッド(16歳)です。彼らは両親とさらに二人の若い兄弟と一緒にドイツにやって来ました。一家はシリアのアレッポからトルコを経て、デュッセルドルフに落ち着きました。
メディナは最初ドイツに着いたとき、家族はとても寂しい思いをしたと言います。家族の誰もドイツ語が話せず、友達を作るにも苦労したからです。
昨年一年、メディナと彼女の兄、そしてクラスの他の生徒たちは毎日iPadで勉強しました。その中にはキュリアキディス先生がKeynoteで作ったいくつかのレッスンを使っての勉強も含まれています。今日、メディナはiPad上で文を正しい語順に並べ替え、Voice Recordを使ってドイツ語で言ってみます。こうすることで彼女や他の生徒たちは、怖がったり恥ずかしがったりすることなく、自分たちで外国語の単語を口に出してみることができるのです。しかも自分のペースで。
欧州全土で様々な学校がAppleのテクノロジーを使って先生と生徒がつながり、コミュニケーションをする方法を見つけ出しています。
「私は彼らを愛し、彼らを教え、そして奮い立たせた人になりたい。彼らの到着を手助けした人に」
フランス、ポーのコレージュ‧ダニエル‧アルゴットでは、生徒たちは先生がiPadで録画した動画レッスンを持って家に帰り、次の日に授業で「宿題」をチェックします。こうすることで、フランス語が流暢でない両親を持つ生徒も教室の中と外で学習を続けることができます。
スウェーデン、マルモのステンクラスコラン‧スクールでは、98%の生徒がスウェーデン語を第二言語として話します。ここでは先生がスウェーデン語で録画した同様の動画レッスンを宿題として生徒に持ち帰らせて以来、数学の成績が80%向上しました。
ウェールズ、ペナースのセント‧サイレス‧スクールでは、「追加言語としての英語」の2018年度上級クラスで、iPadを使って勉強する生徒のこの年の成績が平均3.8ポイント上昇し、3年連続で英語またはウェールズ語を母国語として話す生徒たちの成績を上回りました。
5月、Appleは、マララ基金が職業学校のシンプロンとパートナーシップを組み、フランスの行政サービスの行き届いていない地域の、特に難民や住む場所を失った若い女性を対象に、プログラミング言語のSwiftを教えるプロジェクトに参加することを発表しました。AppleのEveryone Can Codeカリキュラムが彼らにソフトウェア開発の仕事に必要な実用的なスキルを身につける手助けをします。Appleは先生の採用と訓練に必要な資金およびiPadを含む機器を提供します。
キュリアキディスとハディエリは、彼らが若かった時に今日のようなテクノロジーとサポートにアクセスできたらどれほど良かっただろうと言います。彼らが子供の時にドイツに来た時、二人ともドイツ語が話せませんでした。だから新しい土地で孤立する人たちの気持ちが良くわかります。そのことは生徒たちが二人に強烈な親近感を抱いている理由の一つでもあります。その感情は双方に共通するものです。
「彼らは私の子どもたちのようなものです」と、ハディエリ先生は言います。これまでに何度か、学校に来るとある生徒が来ていないということがありました。その生徒の家族が国外退去させられたのです。「私は彼らを愛し、彼らを教え、そして奮い立たせた人になりたい。彼らの到着を手助けした人に。私は常にそうありたいと思っていましたができませんでした。希望を失うな、きっとそこに着けるから、と言ってやる人になりたいのです」
昨年一年、メディナとモハメッドのドイツ語は大いに上達したため、キュリアキディス先生とハディエリ先生のDAZの授業を受けるのは今学期が最後になります。メディナは最近、歴史の授業でナポレオンに関する発表を行いました。スライドをKeynoteで作り、全部ドイツ語で発表しました。彼女はいつかエンジニアになりたいと考えています。そして彼女の兄の夢は薬剤師です。
通訳を通してメディナは、シリアにいた時も幸せだったけれど、ここドイツでは幸せなだけでなく、安全だと言っています。
この特集は教室で革新的なテクノロジーを使う先生と生徒にスポットライトを当てたシリーズとして続きます。
ヴィルヘルム・フェルディナンド・シュスラー・デイスクールの画像